信州大学の現状と方向性





 
 
1.運営諮問会議が目指すもの
大学が不断の努力を通して社会の付託に適切に対応し,社会的存在としてその責任を明らかにすることがこれまで以上に求められている状況において,いかに大学を改善充実し社会にその内容を公開していくかが大きな課題である。このため,信州大学運営諮問会議は,@信州大学の教育研究上の目的を達成するための基本的な計画に関する重要事項,A信州大学の教育研究活動等の状況について信州大学が行う評価に関する重要事項,及びBその他信州大学の運営に関する重要事項について,学外有識者の意見や提言を受け,教育研究及び大学運営の改善充実に資することを目的として,国立学校設置法の規定により,平成12年4月信州大学の機関として,設置されたものである。
もちろん大学の教育研究と大学運営は大学が自らの責任において改善充実していくべきものであるから,運営諮問会議は学長の諮問に応じて審議し,学長に対して助言又は勧告を行うことになる。その意味で信州大学運営諮問会議は,大学が大学全般にわたって自ら改善し充実していこうとする姿勢とその努力を,第三者の視点で検証し,その結果により改善を促し,信州大学の教育研究と大学運営をサポートしようとすることにほかならないと認識する。
 
2.運営諮問会議の審議状況
  信州大学運営諮問会議は,平成12年2月の信州大学評議会で10名の委員により設置することが承認され,平成12年7月26日の第1回運営諮問会議以降,11月21日に第2回会議,平成13年5月31日に第3回会議及び10月10日の第4回会議を経て平成14年2月15日に第5回会議を開催するに至った。
 この間,信州大学の教育活動に関する外部評価の結果を含めた教育研究活動等の状況,教育研究を中心に大学の特色を明確に打ち出すために理念・目標を見直し再構築していく状況,それに則った教育の改革と研究の展開の状況,共通教育の見直しや学生による授業評価に裏打ちされた信州大学の教育活動の実践状況と教育内容・方法等の改善状況,更には研究活動と研究成果の活用等々,活発に推進している大学改革の状況につき,大学側からの説明を聴取するとともに,運営諮問会議での意見等を踏まえて早速検討し取り組んだ理念・目標の見直しや山岳科学総合研究所構想等,信州大学の日々発展する改革状況を2年間に亘って見聞したところである。
 
3.学長からの諮問内容
   第4回運営諮問会議において,第1期の現運営諮問会議委員の任期である2か年間が満了するに当たり,学長から,国立大学を取り巻く状況の激しい変化の中にあって,これからどう進むべきかの将来計画の確立を全学挙げて最優先で取り組んでいるところであるが,信州大学の現状を踏まえて進むべき方向性について,意見や提言を承りたいとの諮問がなされた。
   これまで学長から,教育研究や大学改革等多岐にわたる内容について個別事案ごとに大学の現状の詳細な説明を受け,各委員とも会議の場で,大学側から示された事項・内容を分析評価し発言してきた経緯がある。運営諮問会議としては,これらの発言を基に意見を集約することにより,学長からの,いわば包括的諮問ともいうべき,今回の諮問「信州大学の現状と方向性」に対して答申すべきものと判断した。
 
4.答申の考え方
   上記の考えに立てば,いわば包括的諮問に対する答申をするに当たって,今までの議論を通じた基本的視点の設定が必要ではないかと判断した。このことはまた,運営諮問会議が担っている基本的な役割を確認することでもあり,各委員が会議の場でたびたび発言してきた意見等の底流に流れる意識を共通認識することでもある。すなわち,信州大学が今後一層充実発展するために何が必要かとする視点であり,信州大学が国立大学の法人化問題等々激動の時代にあって,いかにその個性を発揮できるかという視点であると集約できる。
   したがって,以降の記述はこれらの視点を中心に構成することとする。
 
5.信州大学の現状の評価
   総じていえば,信州大学はそれぞれの活動のなかで,他の大学では行われていない果敢な取組を実施しており,大いに評価できるものと判断した。具体的には,全学挙げての外部評価の実施,全学生による授業評価,及び各学部の研究活動を同じ判断基準を基に取りまとめ評価するなどの意欲的な取組である。また,各委員からの意見・提言を早急に検討し,いち早く取り組んでおり,第3回運営諮問会議で示された新たな信州大学の理念・目標の見直し,山岳科学総合研究所構想などの先取的な取組は高く評価できるものである。
   以上のように,全般的にはおおむね好意的な評価になるが,それぞれの事項内容については,まだまだ改善の余地のあるものも少なくないとの結論に達した。その主要な意見は別記(注)のとおりであるが,これらの意見を斟酌され,かつ,アカウンタビリティーの観点からも学外者の視点を充分認識した上で自己改革を推進することを期待する。
        (注);運営諮問会議における意見等の概要について
 
6.今後の教育研究の展開への助言
   ここに掲げるのは,これまでの考察の結果により,運営諮問会議の総意として信州大学に改善を助言する事柄である。指摘の内容を一助として,信州大学が教育研究及び管理運営に今後一層充実発展するよう願って止まないところである。
  (1)信州大学の理念・目標について
a 大学として,また各学部・大学院としての理念と目標を見直し,設定したが,大学あるいは学部等として,より一層の個性化を推進していくのであれば,地理的な側面から模索しても可能性は大きい。山岳科学などもうひとつブレイクダウンしたところで,具体的な計画を検討する必要がある。また,高度専門職業人の養成を目指すとのことであるが,どのような高度専門職業人を養成していくのか,研究科あるいは専攻としての教育目標を明確に打ち出し,信州大学の特性,個性であるアイデンティティを確立する必要がある。
b 研究活動について我が国が現在,欧米諸国のレベルにまで追いついたものの,一位に立てないのは我が国の研究に我が国の文化と地域に立脚した思想がないからである。信州大学においても信州の文化,地域に立脚した大学としての理念と明確な研究目標のもとで研究を推進し,トップランナーとしての地位を自らの手で確立していく必要がある。
c 信州大学がこれまで実施してきた教育研究活動などの高度化,個性化,活性化等に向けての主体的・自律的な自己点検・評価,外部評価などの取組は大いに評価しつつも,更にもう一歩を進めて,理念・目標に基づく諸活動を点検・評価した結果が着実に改善に結びつくような持続的な取組が可能となるようなシステム及び教官の教育への貢献度を評価し教育へのインセンティブを高めるための各種制度などの導入を検討することも必要である。
  (2)教育活動について
a 日本の大学が一番問題視されているのは教育機能の弱さであり,日本の命運に関わるような非常に重要な問題であるので,教育機能を重視した不断の改革・改善に取り組む必要がある。とりわけ,基礎教育と豊かな人間性の涵養を重視し,専門性とともにバランスのとれた学生の育成を目指して,成績評価の厳格化,単位制度の実質化,補習授業の実施等々により学生の質を確保した上で社会に送り出すよう努力する必要がある。
b 明確な教育目標を設定し公表することで,その目標達成のため,教育内容・方法の改善に向けて組織的に取り組むことは重要である。この中で,学生による授業評価は一つの有力な手段であり,信州大学の取組を高く評価するが,教育内容・方法の改善には,学生による授業評価だけでなく,卒業生による評価,同僚評価など多面的な手法の導入による総合的な判断が必要である。
c 付け加えて言えば,教育の成果は卒業後10年,20年経ってから初めて出てくるものとも言える。文系の充実と高度化を図りつつ,旧制松高のように
もう少しおおらかに,伸びやかに,落ち着いた雰囲気の中で学生が友達と一緒に過ごし,自らの将来に向けて真剣に考え,自由に学ぶ,文化の薫り漂う教養教育を目指すべきである。また,同時に多様な評価結果を踏まえ,学生との相互理解を深めるとともに教官からも学生に大いに叱咤激励することも必要である。
  (3)研究活動について
a 基礎科学のようにすぐに社会や産業界で役立たなくても非常に重要な分野があり,努力の積み重ねとこれらを社会や産業界にアピールしてゆくことは大事である。反面,研究活動で重要なことは各学部の世界に誇れる特色ある研究の推進であり,政策的にも世界最高水準の大学づくりプログラムが準備されつつあることから,どの分野の専攻が世界的な研究教育の中核的拠点として参入できるのか,早急な検討が必要である。また,学部固有の特色ある研究分野も大いに進展するよう格段の努力が必要である。
b 研究活動を推進する上で,科学研究費を始めとする競争的研究資金は今後ますます大きな比重を占めることになる。積極的な申請・獲得に向けて各研究者は大いに努力する必要がある。競争的環境の中で,外部資金の導入状況も大学に対する評価対象となり,ひいては国からの資源配分に繋がっていくことに留意する必要がある。
c さらには,今後とも地域に根ざした研究を促進し,分散型キャンパスという立地条件を大いに活用するとともに,信州大学画像情報ネットワークシステムのさらなる整備充実を図るなどして,これまで以上に県を始めとする地方公共団体や産業界などとの連携・協力を推進し,大学からの知的資源を社会へ情報発信することに積極的に努める必要がある。
  (4)大学の運営その他について
a まず,国立大学は国民のものであるという意識改革が是非必要であることを申し上げる。さらには,法人化問題を考えたとき,地方公共団体や民間の各種団体の協力を得られるよう積極的な努力が必要である。
b 各論で言えば,国立大学の法人化を控え,学長のリーダーシップと各学部長等の積極的な協力の下に教育組織と研究組織とを分離して分野間の交流を促進するなど,効率・効果的な意思決定過程や組織運営のための工夫をすべきでないかと考える。また,事務組織の再構築を検討する際,教官が教育研究に重点を置けるように,アメリカの大学でいうノン・アカデミック・プロフェッショナルズのような専門職能集団としてのシステムづくりを念頭に置いて進める必要がある。
c 大学創立以来,数多くの規程等がつくられてきた。また,トラブルが発生すれば,それに対処するためのルールも作られてきた。それは必要であり,有効に機能してきた。しかしながら,このような規程等が多くなり,大学運営の妨げになったり,学長のリーダーシップの発揮に支障をきたすようなことがあれば問題である。また,会議が多くなり,教官(特に若手)の研究,教育の時間が少なくなるようでは問題である。
現行規程や会議,委員会等をもう一度見直し,大学運営の簡素化,能率向上について検討することも必要である。
 
7.次期運営諮問会議に向けて
   国立大学の法人化は目前に迫り,法人化に関する諸課題の検討は,本会議としても大変重要なテーマの一つである。信州大学においては関係委員会等において種々検討を重ねているとのことであるが,それに対して適宜意見を申し述べることが本会議の重要な役割であると判断したので,次期本会議においては,是非,その検討の進捗状況を報告願うなど,開催に当たって留意願いたい。





(別 記)

運営諮問会議における意見等の概要について





 
1.信州大学の理念・目標について
  ○ 信州大学の個性化は地理的な側面から模索しても可能性は大きい
  ○ 地域分散型大学として,地理的条件を背景とした理念は一つの特色
  ○ 議論好きといった信州人の特性を加味
  ○ 大学が重視すべきは学生,地元企業であることを明確に認識
  ○ 大学としての普遍性とともに地域に根差したナショナルなあるいはローカルな要求や必要性に配慮
  ○ 個性,特色として自然との共生,自然にとけ込んでいくことを表現
  ○ 信州大学の特性,個性であるアイデンティティの確立
  ○ より大きな付加価値と国際競争力を持とうという発想から,総合大学を越えたところに本当の信州大学の個性化
  ○ 他に見られない個性を発見し推進することが生き残り策
  ○ 理念が一種の戦略とすれば,それに続く戦術の検討が必要
  ○ 大学改革の実現性と掲げる目標の意図するところを明確に整備
  ○ 各学部の特色を活かした戦略を立て,それを基に大学の総合的戦略構想の構築
  ○ グランドデザインの策定は,既存研究科の再編を含めて研究科レベルで検討した方がよい。

  ○ 戦略的課題のキーワードは他大学でも同様であり,信州の地域の特性を前提としたキラリと光るものを探求していくことが重要
  ○ グランドデザインの策定だけでは勝負しにくい,ブレイクダウンしたところが肝心
 
2.教育活動について
  ○ 大学教育が学生や社会のニーズに適切に対応しているか,という観点からの検討が必要
  ○ 国際人としての活躍に必須なプレゼンテーション教育の充実
  ○ 可能であれば,人間関係に関する科目の設定
  ○ 異分野の教官が融合した主題別科目の題目設定による幅広い教育
  ○ 文系・理系各分野の学生が相対する分野の科目も幅広く履修できるように配慮
  ○ カリキュラムにおける一連の教育システムに評価等も加えた一連のフィードバックシステムが必要
  ○ 専門性のみならず,人間性豊かなバランスのとれた人材の養成
  ○ 実験系では教官が研究している姿を見せることも教育として大切
  ○ 学生による授業評価を如何に活用して,授業方法の改善に役立てるかが重要
  ○ 授業評価は,学生による評価だけではなく,卒業生,同僚などによる総合的な評価が必要
  ○ 学生や社会のニーズを踏まえた教育目標とそれを達成するための組織的な教育内容の改善への取組の必要性
  ○ 基礎学力の向上には,大学における基礎教育の充実・活性化とともに,高校と密接な連携をとり,一体となって努力していくことが必要
  ○ 学生に対するアンケート調査やコミュニケーションの確保など相互理解のための取組の継続
  ○ 少子化時代を迎え,大学は教育に対して絶えず努力し,新機軸を打ち出すことが重要
  ○ 退官した教官で学生や同僚による授業評価の良かった教官に助言を依頼することも有効
  ○ 教育の成果は10年,20年後に初めて表れる。もう少しおおらかに,伸びやかに教育してもらいたい面もある。
  ○ 国際理解教育に関連した英語教育では,教員の研修が一番重要,1年制の大学院でよいから検討
  ○ 法人化されれば,学生に良い教育をして社会に送り出す,教育面での優れた特色が重要
  ○ 教育分野にITが導入されることは,大学同士の国際的競争を意味する。生き残り策の検討が必要
 
3.研究活動について
  ○ 総合大学としてのメリットを活かした農業改善,山岳科学などの専攻等の設置及び地域との連携では,鈴木メソードとの提携等により個性化を 図る必要
  ○ 大学の教育研究には,基礎科学のように,すぐに社会や産業界で役立たなくても非常に重要な分野があり,努力の積み重ねとこれらを社会等にアピールしていく必要性
  ○ ポイントを稼ぐだけの研究でなく,基礎に根差して努力していく姿勢が大切
  ○ 各学部の世界に誇れる特色ある研究を提示願いたい,それが学部の個性
  ○ 学部により科研費の申請に差がありすぎる,申請に向けた努力が必要
  ○ 研究成果の不断の自己点検・評価による改善と研究活動の県民への情報提供
  ○ 今後とも全学的に地域に根差した研究の重視を促進
  ○ 構想している山岳科学総合研究所に将来的には大学院の構築
  ○ 山岳科学を推進する上で,日本山岳会,信大常念岳診療所などネットワークの拡大とともに県の自然保護研究所と連携

  ○ 文理融合の組織作りが果たして永続的なものになるのか,むしろプロジェクトを積み上げていったらどうか。
  ○ 例えば,ライフサイエンスという新しい学問分野が発展しつつあるが,旧来の研究科体制がキャッチアップしていないということが問題点
  ○ 国外の一流の研究者を迎えるなど国際的な視野でドラスティックなことを実施することも戦略としてある。
 

4.大学の運営その他について
  ○ 国立大学は国民のものであるという意識改革が必要
  ○ 法人化問題を考えたとき,地元の協力が得られるような努力が必要
  ○ 社会に対するアカウンタビリティーの視点が必要
  ○ 地域住民等への分かり易いプレゼンテーションによる理解と支援の獲得
  ○ 大学の管理運営については,委員会等で議論するばかりでなく,学長,学部長等によるリーダーシップの下で推進
  ○ 教育と研究の成果・業績の相関がはっきりすれば,大学における教育研究の役割分担のスキームが出てくるのではないか。

  ○ 法人化後は大講座制にして人事の流動性を高め,教育と研究を分離して運営せざるを得ないのではないか。
  ○ 学長のリーダーシップにより,事務方の水準アップを図り,教官と連携しながら大学として活力ある体制を構築。
  ○ 法人化後は,米国のノン・アカデミック・プロフェッショナルズというような外部から人材を登用しての専門職群の活用も必要
  ○ 教官採用は公募制をとること及び選考結果の透明性の確保が重要