処理の責任と義務
信州大学における環境管理

  1  処理の責任と義務  大学の教育・研究・医療など日常活動にともない各種の廃棄物が生じる。他の 事業者と同様,環境保全や公衆衛生の面からこれらの廃棄物は適切に処理されな ければならない。  現在,わが国では「公害対策基本法」に始まり,「大気汚染防止法」,「水質 汚濁防止法」,「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」並びに「下水道法」等に よって廃棄物の排出には法的規制がある。  廃水に限らず全ての廃棄物は,終極的には固体,液体又は気体として自然環境 に排出される。したがって,それらの処理に当たっては,廃棄物の質の転換(安 定化と安全化)と量の低減を図るようにすることを常に考慮し,原点処理を最も 重要な基本原則の−つとすべきである。これは各研究者,実験者,医療従事者が 自分の手元で有害物質の分別収集及び処理を適切に行い,それぞれの実験・研究 室及び病院などから,極力廃棄物を排出しないようにすることである。この意味 において大学等においては,教育・研究者をはじめ一般職員,学生を問わず,全 ての者が廃棄物処理と環境保全との関連や意義をよく理解した上で,最も適切な 処理を行う責任と義務がある。また多様な研究活動ゆえに大学からの廃棄物の排 出過程は複雑となる場合が多い。特に人間の健康と幸福のために社会的指導者の 立場にある大学においては,その処理に対する責任と義務はより強く要求される ところであろう。  なお,廃棄物の処理方法としては,現時点で既に優れたものも少なくないが, 方法自体に問題があったり,あるいは,多くの費用,労力及び時間を要するもの など未解決の問題も少なくない。また,病原性徴生物の中でもその処理が最も困 難とされる肝炎ウィルスなどの問題もある。このような問題に関しては,今後と も関係各方面での研究の推進と,問題点が明確に把握されるよう周知・徹底をは かる必要がある。すなわち,現行の処理方法に満足するだけでなく,改良・開発 を推進することは,本問題の将来にとって,大学等が分担すべき最も重要な事項 のひとつである。  近年,産業や経済活動の著しい発展に伴うひずみとして,自然破壊や環境汚染 が生物圏で急速に広がりつつある。特に,各種排出ガス,廃水,粉じん等の廃棄 物は人間をはじめとして生物の生存環境を脅かしている。  汚染物質の発生源としては,種々の工場や輸送機関などが主なものと考えられ ている。しかし,社会を構成するすべての人たちそれぞれの生産と消費の過程で 生成する廃棄物も,環境に排出されていることを忘れてはならない。大学等から 発生する廃棄物は,絶対量は少ないにしても,それが外部に排出される限り環境 汚染につながることを考慮しておかなければならない。  えてして,研究者はその成果を上げることのみにとらわれ,大気汚染や水質汚 濁などを他人ごとのようにしばしば考えがちである。しかし,計画立案,情報収 集,実験・思考,成果の検討・整理,発表という研究過程は,その中に,廃棄物 の適切な処理という項目が加えられてはじめて完成したものということができよ う。
 使い捨てとか,たれ流しは物質の節約や公衆道徳の面からばかりでなく,環境 汚染防止の立場からも好ましいものではない。大学等において廃棄物処理の目標 を達成するためには,構成員全体の理解と協力,更には経済的裏付けを必要とす るが,目標を達成し得る鍵は,究極的には人間と自然を結ぶ環境サイクルの中で ,廃棄物がどのように循環してバランスを保っているかという認識とモラルの問 題に帰結するであろう。また,医学研究者や医療従事者は,環境汚染の結果が人 体にどのような影響を及ぼすのか,その障害の実状を最も具体的に認識している のであるから,環境汚染の防止に貢献することが期待される。     2  信州大学における環境管理  大学における教育,研究,診療などの活動によって発生する公害を防止し,生 活環境を保全することは,公共の立場にある者の責務である。  信州大学では,学長の諮問機関として,昭和48年より,信州大学公害防止対策 委員会を組織し,適切なる環境保全の方策を審議し,学長に答申並びに勧告を行 なうと共に,学内部局間の連絡調整を計り,また学長の指示に基づいて各部局に 対する指導・助言を行なっている。  大学における教育・研究などにともなって排出される実験廃棄物はその処理を 適切に行なうことによって公害の防止と環境の保全を完璧にすべきことは勿論で あるが,一方教育・研究の一貫として研究者などにその排出する廃棄物が適切に 処理されるべきものであることを認識させることもまた欠くことができない。  従って大学で排出する廃棄物はあくまで大学,ことに排出者自身の責任におい て処理すべきものである。  信州大学公害防止対策委員会においては,上記の主旨に則り全学的規模におい て研究・実験等により排出される廃液・廃油・廃溶剤などを集中処理する施設の 設置が審議決定され,昭和57年3月環境安全センターが竣工した。  大学において発生する廃棄物の現状については,これまでの調査が必ずしも十 分でないため,実態が正確に把握されているとはいえないが,ほぼ次のとおりで ある。  一般に附属病院などの医療機関も含めて大学の廃棄物は,  (イ)生活系廃棄物(非実験排出水,し尿,ゴミ,ばい煙など。)  (ロ)実験・医療系廃棄物(実験廃水,廃油,廃溶剤,有害固形廃棄物(実験    小動物遺体を含む)排ガスなど。)に分類されるであろう。  公共下水道に放流する排出水は下水道法によって規制されている。 これまでの調査結果によれば,おおむね下水道法による除害施設設置に関する基 準以下であり,法及び条例で定める排水基準を満たしている。  しかし,ときとして構内排水溝で基準値を越える重金属,ノルマルへキサン抽 出物質含有量(有機溶媒,油類などによる汚染の尺度)や,BOD(生物化学的 酸素要求量,有機物による汚染の尺度)が観測されたこともある。  このような実例からすると,とくに実験室からの濃厚実験廃液の管理について の対策を強化する必要が認められる。本来有害な重金属塩類を含む廃水をそのま ま流し台から捨ててはならないことは当然である。部局によっては,実験室用小 型重金属廃棄処理装置を設置して独自に処理を行ったり,建物単位,研究室ごと に工夫された分別方式で収集貯留されている。  とくに化学系実験室や生物系実験室でいままで使用されることの多かったクロ ム酸混液などはなるべく使用しないことが望ましい。適当な代替洗浄剤がないと いう理由で止むをえず使用する場合,その廃液は一滴も排水口に入れないように し,完全に分別貯留すべきである。  またシアン系廃液については,原則として発生源で無害化処理することになっ ている。しかし,別章に述べる次亜塩素酸ナトリウム分解法はそれに慣れた化学 技術者でないと,かえって危険を伴うので,熟練者がいない研究室などでは,そ の購入量を最小(いままで500g単位で試薬を購入しているならば,25g,100g 単位で購入するなど。)にし,廃液,残試薬の保管を厳重にし,管理台帳にその 出納を記録する必要がある。  実験室で使用している薬品,薬剤の多くは,毒物及び劇物取締法の適用をうけ るものである。従ってたとえ少量でも,毒物,劇物,特定毒物は同法の取扱い基 準に沿って管理すべきであり,廃棄する場合には同法の廃棄,回収の技術上の基 準に従ってなされなければならない。  大学は,排出される廃棄物の処理を実施するに当たっては,その趣旨を関係者 に徹底させて全員の協力が得られるよう配慮するとともに,全学的な立場か ら実行組織を確立し,処理から管理運営に至るまで総合的な計画を立てる必要が あろう。  学内において分別・収集→回収・運搬→処理・処分が円滑に行われるためには ,廃棄物の処理対策は学内における平常業務の一部として位置付けるよう配慮す るとともに,廃棄物の処理に関する管理・運営のための組織を明確にし,必要な 経費を確保して,実際に処理を担当する者が働きやすいようにすることが望まし い。特に有害物質の処理要綱とか,規則を定めて排出規制を実施するまでには適 当な予告期間を設け,規制の必要性を十分理解してもらうとともに,各人の意識 の高揚を図るために,繰り返し情報活動を行うなどの努力が必要である。  また,学生等に対しては,入学してからなるべく早い時点で,安全問題や環境 問題に対する一般的な教育を実施するとともに,化学実験・実習などにおいて, 特に危険物の取扱い,有害物質の処理方法などに関する指針を作成して配布する ことは有益であろう。